僕は自分で言うのもあれだけれど変わった性質で、雑草が好きだ。コスモスや桜などの有名どころよりも、はるかにそのへんに根を張っている雑草のほうが好きで、よく好みの雑草を見つけてじっとそれを観察したりもする(端から見たら相当変な人だが)
そして今日、びっくりするぐらい好みど真ん中な雑草を見つけてしまったので、思わず持って帰ってきてしまった。けれど、そうしたはいいものの雑草の育て方なんて分からないので、まあたくましそうだから適当にしておけばいいだろう、とペットボトルに土を入れてそれに植えた。名前は雑草なので「草子」にした。その日から僕は、それを草子さん草子さんと呼んで大事に育てた。といってもただ水をあげていただけだが。

そんなある日、草子さんが僕に「男の人は、きれいなものが好きなんですか」と聞いてきた。ちょっとびっくりしながらも、そういう人も多いかもしれませんね、と答えると、そうですか、と言ってしょんぼりしたようになってしまった。ひょっとしたら草子さんは、自分のお世辞にもきれいとは言えない地味な外見に、少しコンプレックスを抱き始めているのかもしれない。僕はそこがいいと思うんだけど。
そうしたらその日の夜、異変が起こった。そろそろ寝ようかとベッドに入りかけた僕は、草子さんがいるペットボトルのあたりが光っているのを発見した。その光がなんというか、聖なる光というか、神々しくて、思わず目を逸らしてしまいそうだった。それでもなんとか、「草子さん?」と呼びながらじいっと見ると、なんと草子さんは百合になっていた。まさかの急展開だった。白いそれはたしかにとても美しかったけれど、特別胸を打つようなものでもなかった。僕はなんと声をかけたらいいか分からなかったので、おやすみなさい、とだけ言って寝た。草子さんは何も言わなかった。

次の日、朝起きてもやっぱり草子さんは百合のままだった。百合子さんに改名しなくちゃいけないのかなあ、とぼんやり思いながら学校へ行った。授業の間、ずっと草子さんのことを考えていた。草子さんが百合子さんになってしまった理由に、思い当たることがあった。
その日の夜、また草子さん(百合子さん?)はまばゆい光を放って、今度は薔薇に変身してしまった。薔薇子さんになってしまったのである。僕はやっぱり目をぱちくりさせてそれを見守ることしかできず、その様子を眺めている内に眠ってしまった。
そして目覚めた時、予想通り草子さんは薔薇のままだった。僕はおはよう、とだけ言ってトーストを焼きに行った。今日は学校は休みだから、いつもよりのんびりできる。普段以上にのろくさとした動作で牛乳を飲んだりトーストにジャムを塗ったりしていると、「どうしてですか」と、突然泣き声がした。草子さんだった。僕はトーストを皿に置いて、薔薇になっている草子さんの傍に寄った。

「どうしてですか、って、どういう意味ですか?」
「男の人は、きれいなものが好きなんじゃないんですか?」
「そういう人が一般的だ、と言っただけで、全員が全員そうだとは限りませんよ」
「あなたはどちらですか」
「僕ですか」
「はい」

僕は雑草だったときの草子さんが好きです、と言うと、草子さんはぽろぽろと泣き出してしまった。花弁から流れ落ちる涙の雫は、とても痛々しくて、可哀想で、愛しかった。しゅるしゅると音がして、いつの間にか草子さんは薔薇から百合になり、最後には元の雑草に戻った。僕が一番好きな草子さんになった。

「あなたは、こんなどこにでもいるような、なんでもない草がいいのですか。それでは私でなくとも、いいのではないですか」
「僕は草子さんがいいんです」

きっぱり言い切ると、草子さんはしばらく間をあけてから、ありがとう、と小さく呟いた。

次の日の朝、草子さんはしわしわに枯れてしまい、二度と生き返らなかった。




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